私の住む福島県田村市船引町船引は、旧くは「片曽根村」といい、その一帯によりそう様に起つ片曽根山は、(見る角度にもよりますが)その山容から「田村富士」とも称されています。山名は、故事を拾えば坂上田村麻呂の東征に謂れを有ちますが、ここでの関心ではありませんので略します。
片曽根山は、私にとってはまさに「裏山」、移が岳とともに、朝な夕な慣れ親しんできた揺り篭のような存在であり、原風景そのものです。
今回、物理的な事情で?ぶらりと出かけたこの山、考えて見れば最近に登った記憶がありません。山頂部までアスファルトによる高規格の道路が敷設され、テレビや携帯の電波塔が林立し、「山」としての「格」が疎外されてしまった感のあるこの山には、悲哀にも似た同情なしに登る事は出来ません。
登山口となる田村市船引総合福祉センターの駐車場に車を置き、現在このセンターの所長をしておられる知友の上遠野伸一さんに挨拶をして登山開始です。
午前の天気は申し分なし。ひっそりとした登山道を上り詰め、辿り着いた山頂は豊かな眺望に恵まれ、また残雪の風情の中、これも久し振りに、市指定史跡の「片曽根三十三観音」を見て周ることが出来ました。人間の数々の傲岸にもかかわらず、この岩肌にそっと託されたつましい光沢は、この山の素朴の健在を示して充分です。
帰りは、福祉センターの食堂に休ませて頂き、もう阿武隈の山のエキスパートと言っても過言でない上遠野さんの見事な写真、また興味深いお話に時間の経つのを忘れてしまいました。